株式会社 一柳アソシエイツ

構想エネルギー21研究会

2014.01.31 更新

一柳が代表幹事を務める構想エネルギー21研究会の第86回勉強会を開催しました。

 2014年1月21日、一柳が代表幹事を務める構想エネルギー21研究会の第86回勉強会の講師に、東京大学先端科学技術研究センター准教授 池内恵氏をお招きして『アラブ・湾岸政治の変動とエネルギー事情』とのテーマで講演を頂きました。池内氏は、1973年東京生まれで、東京大学文学部イスラム学科及び東京大学大学院総合文化研究科で中東地域研究を学びました。アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より現職に就任されています。鋭い洞察力と多様なネットワークを駆使して、中東地域の政治経済情勢についてマスコミ等で独自の視点を含め多彩な情報発信をし、大活躍されています。最近個人ブログを開設し最新情報のきめ細かな発信に注力されております。
ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝http://chutoislam.blog.fc2.com/)」をご参照ください。

 冒頭池内氏から、「2014年の中東情勢での注目点は、2013年に顕著になった米国の覇権の再編と希薄化に対応して、ロシア、そしてついに中国が、安全保障を中心とした政治面で域外大国として中東に深く関与していくかどうかである。その意味で、年初の中国・王毅外相へのアル=ジャジーラのインタビューは注目すべきである。」との話がありました。

 はじめに、イスラム諸国に吹き荒れた2011年の「アラブの春」について説明されました。中東諸国の若年層の人口増要因と彼らに大きな影響を与えたメディアの変容(衛星放送・携帯電話・インターネット・ソーシャルメディア等のシームレスな発展普及)の社会の変化を主因に政治的異議が厳しく唱えられたもので、これに対する国家側の対応とりわけ軍の対応の相違によって様々な現在の結果をもたらしているとのことです。

 次に、中東諸国の変動におけるイスラーム主義の影響についての説明がありました。イスラーム世界に昔から存在する「ウンマ」という非領域的なイスラーム宗教政治共同体への帰属意識が、「アラブの春」の運動に伴う中東地区での米国の覇権の希薄化に伴い、自分たちの活動の場が広がる「開かれた戦線」との認識の高まりと共にイスラーム過激派のテロ活動である「グローバル・ジハード」の活発化が現実のものになっているとのことです。

 更に、昨年9月のシリア問題への米国の対応が「オバマショック」とも言うべき米国の中東地区での軍事的抑止力が極めて疑わしいものとなったと中東各国から見られています。サウジアラビアやトルコなどの米国の同盟国がハシゴを外されたと認識しロシアや中国との関係強化に走っています。その後のイラン核問題でもロシアの提案を丸呑みにした前のめりの和解暫定合意でも米国のスタンスの変化というものが明確になっております。

 米国の一極支配の希薄化に伴う中東各国間の緊張関係の高まりや不安定化により、サウジアラビアやトルコなどの各国政権の今後の予測がつかなくなり不確実性を高めている。このような中東湾岸諸国の国際政治秩序の変容下におけるエネルギー情勢について、ホルムズ海峡の封鎖などの当面のピンポイントの問題は遠のくが、中長期的には大いにリスクが高まることに留意すべきであると話されました。

 その後の質疑応答や池内氏も最後までお付合い頂いた新年会で、出席メンバーから「米国、ロシア、中国などの域外大国の影響力やイスラーム主義も絡み、なかなか理解しにくい中東湾岸諸国の対立構造の本質について、ここまで明快に解説頂いたのは初めてで目から鱗が落ちる思いだ。」との声を多く聞きました。

会議風景

池内 恵 氏

池内 恵 氏

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【池内 恵 氏 略歴】

1973年、東京生まれ。1996年、東京大学文学部イスラム学科卒。
東京大学大学院総合文化研究科で中東地域研究を学び、アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より東京大学先端科学技術研究センター准教授。この間、ウッドロー・ウィルソン・センター客員研究員、ケンブリッジ大学客員研究員、アレクサンドリア大学客員教授などを兼任した。中東地域研究、イスラーム政治思想を専門とする。

主要著作
池内恵『現代アラブの社会思想──終末論とイスラーム主義』講談社、2002年(大佛次郎論壇賞)
池内恵『アラブ政治の今を読む』中央公論新社、2004年
池内恵『書物の運命』文藝春秋、2006年(毎日書評賞)
池内恵『イスラーム世界の論じ方』中央公論新社、2008年(サントリー学芸賞)
池内恵『中東 危機の震源を読む』新潮社、2009年、など。
訳書にジル・ケペル『中東戦記』講談社選書メチエ、2011年がある。