株式会社 一柳アソシエイツ

構想エネルギー21研究会

2014.07.22 更新

一柳が代表幹事を務める構想エネルギー21研究会の第89回勉強会を開催しました。

 2014年7月16日 当社社長一柳が代表幹事を務める構想エネルギー21研究会の第89回勉強会の講師に 国立環境研究所 地球環境研究センター 気候変動リスク評価研究室長 江守正多氏をお招きして、『地球温暖化リスクと人類の選択~IPCCの最新報告』とのテーマでお話しを頂きました。今回はご自身も主執筆者として参画されました気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次表報告書の第1作業部会(自然科学的根拠)報告書を中心に説明されました。

会議風景

 国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)の現状は、京都議定書第二約束期間に入っておりますが、日本は参加しておりません。2010年COP16のカンクン合意により、各国は来年2015年春までに2020年の削減目標・推進すべき行動を表明するよう求められています。来年末パリで開催されるCOP21では、先進国も途上国も同様に順守すべき2020年以降の世界の気候変動・温暖化対策の大枠が合意される予定です。

 まず、世界の気候変動・温暖化の事実の説明がありました。
・温室効果ガス濃度と世界平均気温並びに海面水位は20世紀に急激に上昇している。
・20世紀半ばの世界平均気温上昇の半分以上は、自然要因(太陽+火山)ではなく人為要因(温室効果ガス等)に
 よる可能性が95%以上と極めて高い。
予測される100年後の気温上昇は、社会の発展の仕方と対策の大きさに依存し科学的な予測にも幅があるが、何も対策をしなければ約4℃上昇するとみています。同じく海面水位の上昇は、対策を打たなければ100年後60~90㎝になると予測されています。

 気候変動対策の長期目標として、2010年COP16のカンクン合意で「産業化以前からの世界平均気温上昇を2℃以内に収める観点から温室効果ガス排出量の大幅削減の必要を認識する」となっております。この目標を達成するには、今世紀前半の2050年までに排出量を現状比半減し、更に今世紀後半ではゼロに近いかマイナスにしなければならないとのことです。なお、この2℃の目標決定の経緯について、江守講師から必ずしも科学的根拠が明確ではないとの指摘がありました。

 次に、気候変動関連リスクについての説明がありました。
リスク要因として気候変動の悪影響と好影響及び対策の悪影響と好影響があり、これらの悪影響と好影響の出方は、国、地域、世代(現在vs将来)、社会的属性(年齢、職種、所得等)によって異なるので、「全体像」で捉える必要性を強調されました。
 更に、対策積極派と慎重派の対立について話されました。温暖化の影響は人類にとって莫大な損失を被るもので対策を積極的に打つべきで対策を推進することによりビジネスチャンスも生まれると主張する積極派であり、一方は大規模対策の経済的コストが膨大であり温暖化は良い影響もありそれほど深刻ではないと主張する慎重派であります。

 最後に、それでは誰がリスクを判断するかとのことであります。
近年、専門家が単純に「正解」を供給できなくなってきたことを、実例を上げて説明されました。英国BSE問題、イタリアラクイラの地震並びに日本福島第一原発事故等です。
今後のリスク判断の仕組みとして、「専門家の持っている質の高い情報を共有し、社会の多様な人々の意見を聞きながら、透明性の高いプロセスに基づき、政治的責任において判断されるべきである」との指摘がありました。そのためには関係者相互の信頼関係の構築が不可欠であることを強調されました。

武石礼司 教授

武石礼司 教授

 なお、今回の研究会メンバーによるショートスピーチは、東京国際大学国際関係学部武石礼司教授にお願いしました。テーマは『イラク及び中東情勢と石油』です。従来からのリビアの原油減産に加えイラクのISISの侵攻による大幅減産が起きていること、更に米国のシェールオイルの楽観的先行き増産への懸念観測の台頭などにより、今後の石油価格の予測が一層困難になっております。長期的には中東産油国の石油増産が不可避ではないかと見ております。

 その後の江守氏も参加された懇親会では、出席メンバーから「専門家としての立場からの江守講師のファクトに基づく説明で、この問題の本質をよく理解できた」或いは「孫の世代には更に深刻になる地球温暖化問題がマイナーな議論に留まっているのはおかしい」などの声を聞きました。

江守正多 氏

江守正多 氏

【講師略歴】
1970年神奈川県生まれ
東京大学教養学部卒業、同大学院総合文化研究科博士課程修了、博士(学術)
1997年より国立環境研究所に勤務
2006年より国立環境研究所地球環境研究センター温暖化リスク評価研究室長
2011年より室名変更のため気候変動リスク評価研究室長
2013年より地球温暖化研究プログラム総括
専門は地球温暖化の将来予測とリスク論
気候変動に関する政府間パネル第5次評価報告書主執筆者